日本人の体質 進化の過程から見えてくるもの を紹介します。こちらのようにやせたまま糖尿病になる。これはいったい、どういうことでしょうか。それを説明するには、長い歴史をさかのぼらなければ理解できないでしょう。
日本人の体質 進化の過程から見えてくるもの
日本人と欧米人を比べたとき、同じ人類でありながらけっこうな違いがあることはわかると思います。約20万年前にアフリカで誕生した人類は、約4 万年前に中央アジアを起点に、長い旅を始めました。
アフリカから中央アジアに出て、北上した着たち。そこからヨーロッパに向かった者たち。あるいは、シベリア方面へと枝分かれしていった着たち。北に向かった人たちは、現代のヨーロッパ人です。まだ氷河が溶けていなかったために中央アジアで1万年ほど足止めをくらい、最近の1 万~2 万年くらいの間に北上したようです。彼らの肌の色が白いことからも、ヨーロッパの地は日照時間が短く、土壌がやせていて、農耕には不向きであったと想像できます。
彼らは早い時期から牧畜を覚え、乳や肉を中心とした動物性食品をとって生活していたと思われます。一方、東へ東へと向かった人たちの中に、私たち日本人の祖先がいます。彼らはインドから中国を経て、やがて日本にたどり着きます。
最初のうちは荒れ果てた原野で強い動物の食べ残しをあさったり、虫や月や木の実を食べたりしながら、飢餓を乗り越えてきました。そして7000年ぐらい前(縄文時代)から農耕を覚え、ある程度計画的に一年を過ごす食生活を身につけました。
作物の取れない時期は、蓄えた作物を少しずつ食べて餓えをしのいだのです。北上して牧畜を覚えたヨーロッパ人と、温暖な東方に移動して農耕を覚えた日本人。この食環境が、両者に大きな進化の違いをもたらしました。1つは糖尿病の成り立ちの違い、そしてもう1つは脂肪を蓄える能力の違い。日本人にやせた糖尿病患者が多い理由も、そこから透けて見えてきます。
日本人にやせた糖尿病患者が多い理由
日本では、肥満ではない、もしくはやせた体型の糖尿病患者が多く存在します。これは、アジア人に特有の遺伝的・生活習慣的な要因や、インスリン分泌機能の特性などが影響しているためです。以下にその詳細な理由を説明します。
遺伝的要因
インスリン分泌の効率性
- アジア人は欧米人に比べて、インスリン分泌能力が低い傾向があります。このため、少ない体脂肪であっても、血糖値の調節がうまくできず、糖尿病を発症しやすくなります 。
- インスリン抵抗性が強くなくても、インスリン分泌不足により血糖値が上昇しやすくなるため、やせていても糖尿病にかかりやすいと言えます。
遺伝的多様性
- PNPLA3遺伝子変異: アジア人には、この遺伝子変異が比較的高頻度で見られます。この変異は脂肪肝を引き起こしやすく、糖代謝に悪影響を与えることがあります 。
- TCF7L2遺伝子変異: インスリン分泌に関与する遺伝子で、この変異があると糖尿病のリスクが増加します 。
2. 食生活と生活習慣
食事の影響
- 高糖質の食事: 日本の食文化には、白米や麺類、砂糖を多く使った料理が多くあります。これらは血糖値を急激に上昇させ、インスリンの負担を増加させる可能性があります 。
- 間食の習慣: 砂糖を含む間食や飲み物が多く、日常的に高血糖状態が続くことがあります。
運動不足
- 都市部での生活: 都市化が進んだ生活環境では、運動する機会が減少し、食後血糖値を下げるためのエネルギー消費が少なくなります 。
- デスクワークの増加: 座りがちな生活が多く、食後に血糖値が効果的に下がらないため、高血糖の状態が長引くことがあります。
3. インスリン抵抗性の少なさ
やせ型糖尿病の特徴
- インスリン抵抗性が比較的少ない: 欧米の糖尿病患者に見られるインスリン抵抗性が少ない傾向にあります。代わりに、インスリン分泌能力の低さが主要な問題となることが多いです 。
- 内臓脂肪の影響: やせていても内臓脂肪が多い場合、脂肪の遊離脂肪酸が肝臓での糖産生を刺激し、血糖値を上昇させることがあります。
4. 加齢によるインスリン分泌低下
高齢者に多い
- 加齢とともにインスリン分泌が低下: 高齢になると、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞の機能が低下し、やせていても血糖値が上がりやすくなります 。
- 筋肉量の減少: 高齢者では筋肉量が減少し、糖を取り込む能力が低下するため、食後の血糖値が高くなる傾向があります。
5. その他の要因
ストレスと睡眠不足
- ストレスが多い生活: ストレスによってコルチゾール(ストレスホルモン)が増加し、これがインスリン抵抗性を高めることがあります 。
- 睡眠不足: 睡眠不足は、ホルモンバランスを崩し、インスリンの働きを低下させることがあります。
周産期の栄養状態
- 胎児期の栄養不足: 妊娠中の母親が栄養不足だと、子供は将来的に糖尿病のリスクが高くなることが知られています。この現象は「胎児期の低栄養仮説」として提唱されています 。
具体例と統計データ
日本における統計
- 糖尿病の割合: 日本人成人の糖尿病有病率は約12%で、その中でもやせた体型の患者は約30%を占めると報告されています 。
- 糖尿病の年齢分布: 糖尿病患者は高齢者に多く見られますが、若年層でも肥満でない糖尿病患者が増加しています 。
国際的な比較
- アジア人のリスク: アジア人全体で見ても、やせた体型でも糖尿病リスクが高いことが報告されています。これに対し、欧米人は肥満に伴って糖尿病リスクが増加する傾向が強いです 。
やせた糖尿病患者への対応策
食生活の改善
- 低GI食品の摂取: 血糖値をゆっくり上げる低GI食品を中心に摂取することが推奨されます。
- バランスの取れた食事: 栄養バランスを考えた食事を心がけ、過剰な糖質や脂質を避けます。
運動の推奨
- 定期的な運動: 運動はインスリン感受性を向上させ、血糖値のコントロールに役立ちます。ウォーキングや筋トレが有効です。
生活習慣の改善
- ストレス管理: ストレスを軽減し、コルチゾールの過剰分泌を抑えることが重要です。
- 十分な睡眠: 良質な睡眠を確保し、ホルモンバランスを整えます。
まとめ
日本人にやせた糖尿病患者が多いのは、遺伝的な要因やインスリン分泌の特性、食生活や生活習慣の影響によるものです。適切な食生活の維持、定期的な運動、ストレス管理などで、糖尿病のリスクを低減することが重要です。