糖質制限食はどんな病気・症状に効くのか?

もともとは糖尿病の治療食として始めた糖質制限食ですが、検査データの変化からも明らかなように、さまざまな病気や症状が改善する可能性があります。

厚生労働省は2011年7月6日、それまで「4大疾病」と位置づけて重点対策に取り組んできた「ガン、脳卒中、心臓病、糖尿病」に、新たに精神疾患を加えて「5大疾病」とする方針を発表しました。

うつ病や統合失調症などの精神疾患の患者は年々増えており、従来の4大疾病をはるかに上回っています。

厚労省の2008年の調査で受診者の数は、糖尿病237万人、ガン1 5 2万人などに対して、精神疾患は323万人にのぼっています。こうした現状をふまえて重点対策が欠かせないと判断したわけです。

これらの「5大疾患」に対して、糖質制限食はどこまで効果を見込めるのでしょうか。

  1. ガンに関しては、高インスリン血症や高血糖、そして肥満などの生活習慣がかかわっている場合は、予防効果が期待できます。一方、胃ガンや子宮頸ガンや肝臓ガンなど、細菌感染やウィルス感染が主な原因となっているものには、糖質制限食の効果は期待できません。
  2. 脳卒中については、種類によって効果が異なります。脳卒中の代表的な3つの種類は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血です。脳梗塞は、糖質制限食を実践すると血流がよくなるので予防効果があると思います。脳出血は、脂肪をしっかり摂れば予防できるので糖質制限食がお勧めです。くも膜下出血は、先天的な素因から生じる脳動脈瘤が原因となることがはとんどなので、予防効果はあまり期待できないと思います。
  3. 心臓病のなかでもっとも多い心筋梗塞は、糖質制限食で血流がよくなるので予防効果が期待できます。
  4. 糖尿病は、もちろん糖質制限食でおおいに改善が見込めます。
  5. 精神疾患については、うつ病・うつ状態であればブドウ糖ミニスパイクのない糖質制限食で改善する場合もあると思いますが、改善の程度には個人差があります。また気分の安定は糖質制限食で得られやすいのですが、それだけでは改善しないうつ病もあると思います。うつ病とよく誤診される「双極性障害」は、糖質制限食でも改善は困難です。統合失調症も、糖質制限食だけでは改善が難しいと思います。EPA(エイコペンタエン酸) の投与で症状が軽減したという報告もありますが、糖質制限食で軽減できればいいという程度で、まだどうこう言える段階ではありません。

これらも含めて、それ以外の効果をまとめておきましょう。現時点で症例もたくさんあって著しい改善が認められるのは、糖尿病・肥満・メタボリックシンドローム・脂肪肝です。

症例数はまだそれほど多くないものの、逆流性食道炎と尋常性乾癖もやはり劇的に改善します。

逆流性食道炎は糖質制限食を始めた直後から改善し、尋常性乾癖は1ヶ月くらいで目に見えて効果が表れます。

また、糖質制限食を実践すると全身の血流・代謝がよくなるので、自然治癒力そのものが高まると考えられます。結果として、それ以外のさまざまな病気・症状についても改善した方々が大勢おられます。

糖質制限食は人類本来の食生活であり、人類の健康食なので、これらの改善は当たり前といえば当たり前です。

花粉症・アトピー性皮膚炎・高血圧・尋常性挫創・多嚢胞性卵巣症候群・ダンピング症候群・低血糖など、さまざまな生活習慣病の改善・予防効果が期待できます。

また個人差はありますが、乾燥肌が美肌になったり、髪の毛がしっかり太くなったりと、美容効果が出る人も少なくありません。そしてまだ仮説の段階ではありますが、肺ガン・大腸ガン・乳ガンなどの欧米型ガン、それに動脈硬化・アルツハイマー・老化防止などの効果が期待できます。

糖質制限食で「気になる数値」が改善

糖質制限食を実践すると、血糖値や中性脂肪、コレステロール値など、さまざまな数値が改善します。ただ、これらの検査データは、はっきり一定の傾向が出るものと、そうでないものがありますので、まずはその変化を示しておきます。

病院の検査データを見慣れていない人には少し難しく感じるかもしれませんが、実際に検査や治療を受けたことのある人にとっては有益だと思います。

  1. 血糖値はリアルタイムに改善します。
  2. スーパー糖質制限食なら、ヘモグロビンA1Cは月に1〜2%改善します。
  3. 中性脂肪も速やかに改善します。
  4. H DL (善玉)コレステロールは増加しますが、増加の程度と速度には個人差があ
    ります。
  5. LDL コレステロールは低下・不変・上昇と個人差があります。上昇した人も半年〜1年くらいで落ち着くことが多いです。
  6. 総コレステロールは、低下・不変・上昇と個人差があります。上昇した人も半年〜1年くらいで落ち着くことが多いです。
  7. 尿素窒素はやや増加傾向になる人が多いですが、そのうち落ち着くことが多いです。
  8. クレアチニンは不変です。
  9. カリウムも不変です。
  10. 血中ケトン体は基準値より高くなりますが、生理的なもので心配ありません。
  11. 尿中ケトン体は当初3カ月〜半年は陽性になりますが、その後陰性になります。
  12. 脂肪肝に付随するGPTや-GTP値も改善します。

LDLコレステロールに関して「低下・不変・上昇」と個人差があるのですが、なぜそうなるのかはよくわかりません。H D L コレステロールはかなり増加し、LDL コレステロールは少し低下する場合もあります。

血中ケトン体が基準値より高いのは、糖質制限食を実践したことによる生理的な変化です。農耕開始前の人類のケトン体の基準値はこれくらいだったと考えられます。定期的な検査で、HD L-C は100 〜110mg、LDL-C は110~140mg、TC は210~250mgくらいで推移しています。

テーラーメードダイエットと糖質制限食

玄米魚菜食、断食療法、糖質制限食を経て、いま私は1人ひとりの年齢・体質・病状・嗜好に合わせたテーラーメードの食事療法をすすめています。

症状の改善だけなら、人類皆糖質制限食でよいと思いますが、地球の人口70億人を養うために穀物は必要です。

このことをふまえて食い分けが必要だと考えています。

例えば、小児、青少年、アトピーや喘息の若い人、成人でも糖尿病やメタポリックシンドロームなどがない人なら、主食を末精製の穀物(例えば玄米)にして 食事療法を実践すればよいと思います。

運動選手など日常的に運動をしている青少年は、ある程度の量の未精製穀物を摂っても、筋肉がどんどん血糖を利用するのでブドウ糖ミニスパイクも生じにくく、大丈夫です。

一方、読書家タイプで運動をあまりしない青少年は、未精製穀物を摂るにしてもやや少なめにしておくほうが無難です。

すでに糖尿病を患っている人やメタボの人は、糖質制限食がベストの選択です。糖質制限食は糖質が少ないので食後血糖値の上昇がはとんどなく、常に脂肪を燃やすエネルギーシステムが活性化しており、肥満解消や生活習慣病予防にもおおいに役立ちます。

このように「テーラーメードの食事療法」の枠組みで考えていけば、玄米魚菜食と糖質制限食は対象が異なっており、矛盾は生じません。玄米魚菜食、糖質制限食、断食に共通する現象があります。それは食前・食後血糖値の差が少なくて、代謝が安定することです。これが食事療法の効果という点で決定的に重要といえます。

糖尿病とメタボは、ほとんどが糖質制限食のみで改善するはずです。

1984年から食事療法の研究を続けてきて現在に至るわけですが、基本的に、食事療法をしっかり行えば、それだけで健康になれる道を目指してきました。

単身赴任のサラリーマンや下宿生活の学生さんで、外食やコンビニの弁当などですますことが多く、食生活がどうしても偏る場合などは、サプリメントが必要なこともあると思います。

また、スーパー糖質制限食の初期に、運動量が多い人で時にこむら返りが生じることがあり、カルシウムとマグネシウムの補充が有効なこともあります。

このように、サプリメントがいっさい不要ということではありませんが、テーラーメードの枠組みのなかで、できるだけ食事療法単独で健康増進を目指したいというのが、基本的な考え方です。もちろん「食事療法+西洋薬+漢方薬」は、てありです。

今後もサプリメントや健康補助食品に頼らなくてすむような、テーラーメードの食事療法を提唱していきたいと考えています。

玄米菜食からスタート

糖質制限食の研究を始めてかなりの年月が経ち、その間、実に多くの方々が糖質制限食を実践されました。患者さんや多くの皆さんからさまざまな声をいただき、その効果の大きさに私自身が驚かされることも少なくありませんでした。

しかし当然ながら、糖質制限食に至るまでには試行錯誤があり、そのときどきの学びが糖質制限食の理論を補強したり、糖質制限食の効果を高めたりするうえで役に立っています。

糖質制限食が人類の健康食であるという確信を得たのも、そうした経験があったからです。そこでどのようにして糖質制限食にたどりついたのかを紹介します。

玄米菜食を導入したのは、1984年でした。病院給食として玄米を提供したのは、日本初だったと思います。当時、西洋医学を学び、漢方医学も学び、なんとか目の前の患者さんの症状を改善したいという思いとは裏腹に、治療がうまくいかないこともあり、臨床的に壁にぶちあたっていた時期でした。

いろいろ悩みましたが、西洋医学も漢方治療も薬物療法中心なので、薬物治療の前にわ食生活そのものを根本的に見直す必要があるのではないかという思いが湧いてきました。患者さんに食べてもらうなら自らもということで、主食を玄米に代えて、ジャンクフードや甘い物もいっさいやめました。

10日間くらい経つと、不思議なことに中学生時代からの長い付き合いだったアレルギー性鼻炎が、ピタリと止まりました。

ところが深酒が3 日も続いたり、たまに甘い物を食べると天罰てきめん、アレルギー性鼻炎が再発し、つくづく食生活の大切さを身をもって思い知らされました。

自らの体験もふまえて、1984年から当分の間は、アトピーも糖尿病もリウマチもぜんそく喘息も肥満も… すべての病気に対して玄米魚菜食を推奨していました。

玄米魚菜食とほぼ同じ時期に病気治療の一環として導入したのが絶食療法(断食療法)ですが、こちらも病院としては希有な試みだったと思います。

患者さんに断食してもらうなら自らもということで、さっそく試してみました。最初の2日間は、午前中立ちくらみ・脱力感がありましたが、3 日目はそこそこの健康状態でした。

それでも血糖値は35mg/dl舶と、びっくりするような低い数値が記録されこんすいました。普通なら意識不明で昏睡のレベルですが、断食中は血中ケトン体が高値となり、脳のエネルギー源となるので大丈夫なのです。

脳はケトン体を利用するという事実を、すでに34歳のときに自らの体で実験していたようです。その後しばらくは毎年1回のペースで断食をしたので、計12〜13回したことになります。

断食を始めてから、アレルギー性鼻炎は基本的にコントロール良好です。しかし忘年会シーズン(深酒) や中国旅行(砂糖+酒) の際は、それなりに再発して漢方薬を服用していました。

1999年から糖質制限食を導入し、糖尿病治療に画期的な成果をあげていました。しかしながら、あまりにも変わった食事療法ということで、当初は私も栄養士も信用していなかったのです。

その後かなり重症糖尿病患者さんが入院され、玄米魚菜食(カロリー制限食)を実践してもらいましたが、1週間たっても食後血糖値は400mg/dlを超えていました。そこで思い切って糖質制限食に切り替えたところ、インスリン注射も経口血糖降薬も使用しなかったにもかかわらず、その日から食後血糖値は正常になりました。

正直びっくり仰天しました。抜群の治療効果を目の当たりにした私たちは、病院をあげて糖質制限食の研究に取り組むようになったのです。

さて、私自身はここ十数年は断食していませんが、1回目の断食後は朝食抜きの1日2食でプチ断食を継続していて、食生活にはそれなりに気をつけていました。

しかし、2002年の病院の健康診断 でついにヘモグロビンA1Cが6.3% と糖尿病の域に達し、慌てて食後2時間血糖値を測定してみると260mg/dlもあり惜然としました。

胚芽米に替えて玄米で実験してみても240前後ではんの少し減少しただけでした。腹部の内臓脂肪CTで基準オーバー、そして高血圧… … しつかりメタポリックシンドロームの基準を満たしていました。

ここに至り、一発奮起して、2002年6月から糖質制限食を始めました。

肉・魚・野菜・豆腐などおかずは食べ放題で、主食(糖質)だけがNGです。酒はビール・日本酒などの糖質を含んでいる醸造酒はやめて、もっぱら焼酎にしました。その結果、半年後には体重が56kgに落ち、血圧も120/70mmHG、ヘモグロビンA1Cも正常になり、メタポリックシンドロームも解消し、学生時代の体型にぴったり戻りました。年現在もその体型を保っています。

 

農耕前の人類の「主食」は何だったか?

農耕が始まる前、狩猟・採集の時代には、人類の主食が穀物ではありえないことをここまで説明してきました。

それでは、初期の人類の主食はいったい何だったのでしょう。とくに、文化が出現する以前の、石器も狩りの技術も未熟な70 0万〜20万年前の人類の主食とは?主食は種の生存にとって大きな意味を持つもので、同時代・同地域で主食が競合する種はどちらかが絶滅していきます。

すなわち自然界では、一種の動物に一種の主食があるのです。「親指はなぜ太いのか」のライフワークに、マダガスカル島(外界と遮断された世界) の多種のサルの生態や主食を調べた仕事があります。島氏は、各種のサルで、主食を摂るのにピッタリの親指や手指が発達することを見出しています。

つまり、マダガスカル島に住むさまざまな種のサルには、それぞれ異なる固有の主食があり、主食を食い分けることで共存しているのです。から例えばアイアイというサルの主食は、殻が固くて3 cmくらいの大きさのラミーという巨木の種子です。

 

アイアイは、まず非常に太い親指で殻をしっかり固定して、歯で削って穴を開けたあと、特殊に発達したきわめて細くて長い中指を突っ込んで、中身をかき出して食べます。主食と手指の関係ということでは、アフリカのチンパンジーのナックルウォークも特徴的です。

彼らは、蔓に覆われた密林で木々の先にある果実を主食として、蔓を持って移動しっつ食事をします。そのため親指と手指は、蔓をつかんで移動して主食を得るライフスタイルにピッタリの構造をしています。

彼らはたまに地上に降りたときも、蔓を持つときのナックル(拳固) のまま歩行するのです。他のサルのように手掌をつけて歩くことはしません。

島氏は主食と手指のこのような関係を指摘した後に、人類の主食について次のような大胆な仮説を述べておられます。「ライオン等の肉食獣が、大型草食獣を倒して内臓や肉を食べる。その後ハイエナが登しにく場し屍肉を漁る、武器も未熟で狩りもままならない当時の人類は、ハイエナが去るのを待って最後に残った骨(骨髄) を拾って手にもって安全な場所まで二足歩行で移動したあと、石(石器) で骨を割ってそのまま食べたり骨髄をすすったりしていた。

主食は常の食物だから握りしめる石は常に持っていなくてはならない。そのため四足歩行がむつかしく二足歩行が必要となった」その状況証拠として、アフリカ東海岸の人類の遺跡のはとんどに、「大型肉食獣の歯形の付いた草食獣のかち割られた骨」が出土しているそうです。

そして人類の親指は、他のサルとはまったく異なるきわめて特殊な形態をしており、石を握りしめるのに最適な機能を有しているそうです。骨や骨髄は、他の動物とはまったく競合しない、安定して確保できる食糧でもあります。

骨髄には、人体に欠かせないEPA( エイコサペンタエン酸) やDHA (ドコサヘキサエン酸)もたっぷり含まれています。

タンパク質・脂質・カルシウム・鉄なども豊富です。富山県食品研究所によれば、午骨100gあたりタンパク質19.7%、脂質柑18.1 % 、カルシウム780mg、鉄8.6 mgです。

豚骨や鶏骨もまた、栄養的には申し分のない構成で、骨は人類の主食として優れたバランス栄養食といえます。人類の脳の機能が急速に発達した時期(約20万〜16万年前)は、動物性食品にしか含まれていないEPA・DHA の摂取が重要なポイントであり、この頃の人類は、それらが含まれている食品をしっかり摂っていたと考えられます。

大昔の人類の主食が骨・骨髄であるという島氏の仮説は、一見びっくりするようなものですが、私はかなりの説得力を感じました。骨(骨髄) だけではなく、魚介類や動物の内臓・肉なども含めて、動物性食品が狩猟・採集時代の主食だったという仮説もありおぼつかえると思います。少なくとも植物性食品が主食では、脳の発達は覚束なかったでしょう。

中性脂肪として蓄えられていた炭水化物

体内で生産できない必須アミノ酸と必須脂肪酸は、食べ物から摂らなくてはなりません。ビタミンも体内で合成できないものがはとんどで、食べ物から摂る必要があります。

これに対して、糖質は食べ物から摂る必要はありません。肝臓でアミノ酸などから糖新生によりブドウ糖を生成できるからです。

すなわち必須糖質は存在しません。それでは、人類の進化の歴史において、炭水化物(糖質)は何のためにあったのでしょうか?

実は狩猟・採集時代には、中性脂肪を蓄えることが糖質を摂る一番の役割だったと考えられます。前述のように、中性脂肪を体脂肪として蓄えておくことは、日常的に襲ってくる飢餓への唯一のセーフティーネットだったと考えられます。

そのため、運よく手に入れた野生の果物、ナッツ類などの糖質を体内に取り込み、それを中性脂肪に変えていたのです。

また、果物の果糖はブドウ糖にははとんど変わりませんが、吸収されて肝臓に至り、ブドウ糖よりすばやく中性脂肪になって体内に蓄えられます。

このように、糖質は貴重な中性脂肪蓄積のもとだったと考えられます。本来、中性脂肪を蓄えることが第一義だった糖質を、農耕が定着して以降は、日常的に摂るようになりました。さらにこの200年間は精製炭水化物を常食するようになったので、大量の追加分泌インスリンが出て、中性脂肪がたまりやすい体質になり、肥満やメタポリックシンドロームになりやすくなったのです。

中性脂肪を下げるための知識と習慣
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主食が穀物ではなかった証拠4「果糖と中性脂肪」

次に、果糖と中性脂肪について考えてみます。果糖というのは果物に含まれる糖質の主成分ですが、実におもしろい性質を持っています。

果糖が中性脂肪を合成しやすい糖質であることは、以前から知られています。果物中の果糖は、糖輸送体のグルット5によって吸収されますが、血糖にはほとんど変わらずに肝臓まで運ばれ、ブドウ糖代謝系に入ります。

このとき果糖は、ブドウ糖よりすばやく代謝されるという特徴があります。また果糖は、肝臓で脂肪合成にかかわる酵素を活性化するため、とても中性脂肪に変わりやすいのです。

このように、果物の果糖は中性脂肪をためやすく肥満しやすい性質を持っており、現代では要注意食材といえます。

さて、それでは再び狩猟・採集時代の食生活を考えてみましょう。果物には果糖、ブドウ糖、ショ糖などの糖質が含まれています。10万年前や20万年前にアフリカの人類がたまの果物にありついたとき、2つのシステムが稼働したはずです。

  1. ブドウ糖やショ糖→血糖値少し上昇→インスリン少量追加分泌→グルット4が脂肪細胞表面に移動→ブドウ糖を取り込み中性脂肪に変えて蓄積。
  2. 果糖→インスリンとは無関係にグルット5 により吸収されて、肝臓に運ばれて速やかに中性脂肪を合成。

この2つのシステムは、農耕が始まる前の人類の食生活と生存競争において、きわめて重要な意味を持っていたと考えられます。

すなわち、中性脂肪を蓄えることは、ご先祖にとって、飢餓に備えるための唯一無二のセーフティーネットだったからです。

果糖がインスリンに依存せずに、肝臓でブドウ糖より速く代謝され中性脂肪に変わるのも、農耕前の人類にとってはとても大きな利点だったと考えられます。

体脂肪をある程度蓄えられるのが、現世人類の大きな特徴です。

とくに女性の乳房とお尻は、脂肪の蓄積装置として優れたものであり、7属23種のなかでホモ・サピエンスが唯一生き残った大きな理由の1 つといえます。

ごく普通の体型の女性なら、その体脂肪により、水さえあれば母子ともに2ヶ月くらいは生きられるという大きな優位性があるのです。

中性脂肪を下げるための知識と習慣
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主食が穀物ではなかった証拠3「グルット4の役割」

つめの証拠は「糖輸送体」にまつわることです。細胞が血液中のブドウ糖を取り込むためには、GLUT(グルット)と呼ばれる「糖輸送体」が必要です。

このうちグルット1は赤血球・脳・網膜などの糖輸送体で、脳細胞や赤血球の表面にあるため、血流さえあればいつでも血液中からブドウ糖を取り込めます。

一方、筋肉細胞と脂肪細胞に特化した糖輸送体がグルット4で、ふだんは細胞の内部に沈んでいるのでブドウ糖をはとんど取り込めません。しかし血糖値が上昇してインスリンが追加分泌されると、細胞内に沈んでいたグルット4が細胞表面に移動してきて、ブドウ糖を取り込めるようになるのです。

グルットのなかでインスリンに依存しているのはグルット4だけです。インスリンとグルット4 の役割を、農耕前の時代までさかのぼって考えてみました。

グルット4 は、今でこそ獅子奮闘の大活躍なのですが、農耕前ははとんど活動することはなかったと考えられます。

すなわち農耕後、日常的に穀物を食べるようになってからは「食後血糖値の上昇→インスリン追加分泌→ グルット4が筋肉細胞・脂肪細胞の表面に移動→ブドウ糖を細胞内へ取り込む」というシステムが、毎日食事のたびに稼働するようになったのです。

しかし、狩猟・採集時代には穀物はなかったので、たまの糖質摂取でごく軽い血糖値上昇があり、インスリン少量追加分泌のときだけグルット4 の出番があったにすぎません。

運よく果物やナッツ類が採集できた場合のみです。この頃は、血糖値は慌てて下げなくてはいけないはど上昇しないので、グルット4 の役割は、筋肉細胞で血糖値を下げるというよりは、脂肪細胞で中性脂肪をつくらせて冬に備えるほうが、はるかに大きな意味を持っていたと思います。

すなわち、農耕前は「インスリン+ グルット4」のコンビは、たまに糖質(野生の果物やナッツ類) を摂ったときだけ、もっぱら中性脂肪の生産システムとして活躍していたものと考えられます。

また、摂取した糖質は肝臓にも取り込まれてグリコーゲンを蓄えますが、あまった血糖が中性脂肪に変えられて脂肪細胞に蓄えられます。

この中性脂肪の蓄積システムも、いまでは日常的に稼働していますが、狩猟・採集時代には食後血糖値の上昇ははとんどないので、肝臓に取り込まれるブドウ糖もごく少量で、中性脂肪に変換されることも少なかったと思います。

このように、農耕前の糖質をはとんど摂らない食生活では、「インスリン+ グルット4」のコンビの出番は少なかったわけです。同じ糖輸送体でも、グルット1 (脳・赤血球・網膜の糖輸送体) のほうは、農耕前も農耕以後も24時間常に活動しているわけで、グルット4 とは大きな違いがあります。

インスリンが追加分泌されたときだけ稼働するというグルット4 のシステムは、たいへん特殊であり不思議な代物です。しかし糖質がたまにしか摂取できない時代では、必要なときだけ稼働するというのはとても合理的です。農耕前の7 0 0 万年間は、たまに8 6果物やナッツを食べて血糖値が軽く上昇したときだけ「インスリン+ グルット4」を稼働させて、飢餓に対するセーフティーネットである中性脂肪を蓄えていたのです。

ふだんは必要ないので、グルット4は細胞内で鎮座していたのでしょう。「インスリン+ グルット4」の特殊性も、人類の主食が穀物(糖質) ではなかった状況証拠といえます。

主食が穀物ではなかった証拠2「人体のバックアップシステム」

2つめの証拠は、人体のバックアップシステムに関することです。ケトン体は、ほとんどの体細胞でエネルギー源として使われますが、唯一赤血球だけはミトコンドリアというエネルギー生産装置を持っていないので、ブドウ糖しか利用できません。

肝臓はケトン体を生成しますが自分では利用しません。赤血球は血液の主成分の1つで、体細胞に酸素を渡し、二酸化炭素を受け取って肺まで運んでいます。

もしこの機能が損なわれてしまうと、酸素がきちんと送られなくなって生命維持に深刻な事態をもたらします。

したがって、ブドウ糖しか利用できない赤血球のために、最低限のブドウ糖を常に確保しておく必要があり、人体は多重のバックアップシステムを持っています。グルカゴンやエビネフリンというホルモン、副腎皮質ステロイドホルモンなどは血糖上昇作用があります。

そして肝臓でアミノ酸などから糖新生してブドウ糖をつくり、血糖を確保します。このようなバックアップシステムが不測の事態に備えて用意されているわけです。

一方、インスリンの場合はどうでしょうか?インスリンは体内で唯一、血糖値を下げる働きをしています。すい臓のβ 細胞がインスリンの分泌をきちんと行っていればよいのですが、分泌機能が低下してしまうと血糖値を下げることができなくなり、人体にやはり深刻な事態をもたらすことになります。

ところが、インスリンにはバックアップシステムがありません。糖尿病がこれはど増えていることを考えれば、すい臓のβ 細胞というのは脆弱なものといえますが、それ以外に血糖値を下げるシステムはまったく用意されていないのです。

その理由として考えられるのは、農耕前の人類が糖質をはとんど摂らない食生活を送っていたからではないでしょうか。糖質を摂らなければ血糖値が上がることはまれで、インスリンの追加分泌はほとんど必要ありません。したがって、バックアップシステムをつくる必然性がなかったと考えられます。このことも、人類の主食が穀物(糖質) ではなかったことの状況証拠です。

主食が穀物ではなかった証拠1「インクレチンの効力」

現代人が穀物に依存するような遺伝子を備えていないということは、人体の仕組みを見れば理解しやすいと思います。

「DPP- 4阻害剤」という糖尿病の薬が日本でも健康保険で使えるようになり、2009年12月から発売されました。この薬は「インクレチン」というホルモンを血中にとどめる作用があります。

インクレチンとは、小腸から分泌されるホルモンで、血糖値が正常のときはインスリン分泌を促進させず、食後高血糖のときだけインスリン分泌を促進させるので、低血糖も起こしにくいのです。

まことに都合のいいホルモンですが、残念なことにDPP-4酵素によって速やかに分解されてしまうため、血中の半減期が約2分と非常に短いのです。

この酵素の働きを阻害してやれば、インクレチンは血中にとどまり、およそ24時間近くも血糖降下作用を発揮してくれることになります。

ここで根源的な疑問が湧いてきます。なぜ、このような都合のいいホルモンが、血中でわずか2分で分解されて効果を失ってしまうのでしょうか?考えられる一番シンプルな推測は、人類の進化の過程でインクレチンは食後2分くらい働けばもう充分で、あとは消え去るのみだったということでしょう。農耕が始まる前の700万年間は、日常的な血糖値の上昇がはとんどなかったのですから、インクレチンが何時間も働かなくてはならない必然性はありません。

当時の食生活でいえば、日常的には野草・野≠采、たまにナッツや果物などの糖質を摂ったときに血糖値が少し上昇するので、インクレチンはそれに対応していたものと考えられます。

そうだとすれば、食後2分間働けば充分です。農耕が始まり、食後高血糖が日常的に生じるようになったあとは、インクレチンにおおいに活躍してはしいところです。

しかし、いかんせん700万年間の進化の重みは大きくて、DPP-4が律儀にすぐ分解してしまうクセがついているのです。

人類の歴史を考えれば穀物が主食になった期間はごく短いので、それに対応できるような突然変異は生じなかったのでしょう。インクレチンが約2分間で分解されるという生理学的な特質は、人類の主食が長らく穀物(糖質) ではなかったことの証拠といえるでしょう。