2018年 1月 の投稿一覧

日本人は肥満に弱い

これまでに紹介したとおり、日本人が肥満に恐ろしく弱い民族だということがわかります。中央アジアから北上した人たち、すなわちいまの欧米人の祖先は、高脂肪・高タンパク食に1万年以上慣れ親しんできた人たちです。

彼らは目の前にある食べ物を食べるだけ食べて、自分の皮下脂肪に保存して、飢餓に備えたのだろうと考えられます。そのためヨーロッパ人は皮下脂肪細胞の数が非常に多く、大量の脂肪を蓄えられるように進化してきました。つまり、肥満にきわめて強い。太っていても健康で、過度でなければ肥満が病気に結びつくことはあまりありません。

一方日本人はどうでしょうか。農耕に重きを置いた民族は、次の収穫期まで細々と食べつなぐ生活を余儀なくされてきました。一度に食べて自分の体の脂肪として貯蓄するのではなく、そう簡単に腐らないイモ類や穀類を少しずつ食べるという倹約型の食事をしてきたのです。

その結果、おのずと体内に蓄えることのできる脂肪も少なく、体に持っている脂肪細胞の数も少ないまま進化してきました。その代わり、生きるのに必要なエネルギーが少なくてすむ倹約遺伝子を獲得しました。

実際日本人は、倹約遺伝子を持っている人が欧米人の2〜3倍、多いことがわかっています。これがまた、現代においては、肥満や糖尿病を助長する原因になります。かなた遠い歴史の彼方に、皮下脂肪が少なく、少量の食料でも生き残ってきた忍耐強いわれわれ日本人の祖先の姿が見えるようです。わざわしかしそれが、飽食の現代ではすべてに災いします。まず、倹約遺伝子が多ければ、少し余分に食べただけで太ってしまいます。これまでの研究で、1種類の倹約遺伝子を持つ人は200 kcal、2種類の倹約遺伝子を併せ持つ人は300 kcalも基礎代謝が減少することがわかっています。

基礎代謝とは、じつとしているだけでも消費されるエネルギーのこと。これが多ければ太りにくく、少なければ太りやすくなります。同じものを食べても、倹約遺伝子を持っている人は基礎代謝が少ない分だけ太りやすくなります。

また現在では、日本人がもともと脂肪細胞をたくさん持っていないことも日本人の糖尿病の特色であることがわかってきています。過剰なエネルギーが体に入ると、内臓脂肪であれ、皮下脂肪であれ、脂肪細胞は脂肪を取り込み、肥大化します。

元の脂肪細胞の数が多ければ、過剰なエネルギーをたくさんたくわえることも可能ですが、もともとの数が少ないと、とくに内臓脂肪はすぐに肥大化を起こし、悪玉のホルモンを分泌し始めます。日本人は元来、この脂肪のタンクが小さいので内臓脂肪細胞の肥大化を起こしやすく、反対に欧米人はこの脂肪のタンクがとてつもなく大きいので、たくさんの脂肪をためることができます。このため、私たちに比べてとんでもなく太っても、欧米人は糖尿病にはなりにくいのです。

医師が糖尿病になった闘病記はこちら。

日本人の膵臓機能は他の民族に比べて低い

1万年以上前から動物性食品に慣れ親しんできたヨーロッパ人は、中世の時代にはすでに1日270グラムもの肉とおよそ60グラムもの脂肪を摂取していました。この動物性タンパク質、動物性脂肪は、少量で莫大なエネルギーを持ち、人間の生存にはこのうえなく有利な食品です。

そしてこの脂肪の多い食品によって、ヨーロッパ人の膵臓は大量のインスリンが出るように進化しました。脂肪は、糖を細胞に取り込むインスリンの働きを阻害して、糖が細胞に入りにくい状態、すなわちインスリンの感受性の低下を引き起こします。すると、膵臓はさらに大量のインスリンを分泌し、糖を細胞に取り込ませようと盛んに働きます。

乳や肉など脂肪の多い食物をとるには、膵臓を発達させ、大量の脂肪に負けないだけの大量のインスリンを出す必要があったのです。加えて冷蔵技術などが発達していない時代は、乳や肉を残すことはできません。それらを全部、エネルギーとして体にため込むためにも、大量のインスリンが必要でした。

つまり、現代のヨーロッパ人は、数千年の脂肪との闘いの中で生き残ってきた、糖尿病に強い子孫なのです。一方、日本人の祖先が食べていたのは、おもにイモや木の実や雑穀などの植物性の食物です。エネルギー源である穀類は、糖がたくさん集まった多糖類で、消化・吸収に時間がかかります。

ゆっくり吸収されると、インスリンもゆっくり分泌されます。脂肪を多く摂取しているヨーロッパの人々のように、急激なインスリン分泌を必要としませんでした。また、脂肪の摂取はきわめて少なかったと推察できます。

縄文時代で1日あたり10~14グラム、平安時代(約1000年前)で11グラム、江戸時代末期(150年前) でも19グラム程度だったと分析しています。

日本人はごく直近まで、何千年にもわたって脂肪を多くとる食生活を送ってこなかったので、ヨーロッパの人たちのようには膵臓が発達しませんでした。加えて、穀類はきちんと保存すれば腐ることはなく、収穫したものを少量ずつ計画的に食べることができます。

ヨーロッパ人のように、一度に大量の食物をまとめ食いして、インスリンを大量に出す素地はなかったのです。日本人は、インスリンの分泌という観点からいうと、倹約型の進化をたどってきた民族なのです。日本人と欧米人を比べると、日本人のインスリンの分泌能力は欧米人の50~70% 程度しかないことも明かになっています。そのインスリン分泌の脆弱な日本人も、長く欧米の食生活にさらされると、インスリン分泌能力が上がることがわかってきました。

進化の過程から見えてくる日本人の体質

こちらのようにやせたまま糖尿病になる。これはいったい、どういうことでしょうか。それを説明するには、長い歴史をさかのぼらなければ理解できないでしょう。

日本人と欧米人を比べたとき、同じ人類でありながらけっこうな違いがあることはわかると思います。約20万年前にアフリカで誕生した人類は、約4 万年前に中央アジアを起点に、長い旅を始めました。

アフリカから中央アジアに出て、北上した着たち。そこからヨーロッパに向かった者たち。あるいは、シベリア方面へと枝分かれしていった着たち。北に向かった人たちは、現代のヨーロッパ人です。まだ氷河が溶けていなかったために中央アジアで1万年ほど足止めをくらい、最近の1 万~2 万年くらいの間に北上したようです。彼らの肌の色が白いことからも、ヨーロッパの地は日照時間が短く、土壌がやせていて、農耕には不向きであったと想像できます。

彼らは早い時期から牧畜を覚え、乳や肉を中心とした動物性食品をとって生活していたと思われます。一方、東へ東へと向かった人たちの中に、私たち日本人の祖先がいます。彼らはインドから中国を経て、やがて日本にたどり着きます。

最初のうちは荒れ果てた原野で強い動物の食べ残しをあさったり、虫や月や木の実を食べたりしながら、飢餓を乗り越えてきました。そして7000年ぐらい前(縄文時代)から農耕を覚え、ある程度計画的に一年を過ごす食生活を身につけました。

作物の取れない時期は、蓄えた作物を少しずつ食べて餓えをしのいだのです。北上して牧畜を覚えたヨーロッパ人と、温暖な東方に移動して農耕を覚えた日本人。この食環境が、両者に大きな進化の違いをもたらしました。1つは糖尿病の成り立ちの違い、そしてもう1つは脂肪を蓄える能力の違い。日本人にやせた糖尿病患者が多い理由も、そこから透けて見えてきます。