抗酸化ミネラルの「セレン」の摂取量が少ないと乳がん患者が多い

放射線から身を守るために、最も重要な抗酸化ミネラルの1つがセレンです。セレンは亜鉛とともに、体内の抗酸化酵素の主成分となっており、放射線による細胞の損傷を防ぐだけでなく、がんや老化予防、生活習慣病の予防にも有効です。

チェルノブイリ原発事故では、放射線による健康被害を防ぐために、セレンが用いられ、効果を発揮したといわれています。セレンが発見されたのは19世紀のことでした。その当時、スウェーデンのファルン鉱山から産出される黄鉄鉱を原料として、硫酸の製造が行われていました。
1817年、スウェーデンの化学者、ベルセリウスは、硫酸を製造する鉛室の底にできる沈殿物から、ある物質を見つけました。それはテルルという物質と似た性質をもっていましたが、実験を重ねるうちに別な物質であることがわかりました。
テルルは、ガラスなどの着色剤に用いられる鉱物で、現代では太陽電池や電子部品に使われています。いわゆるレアメタルの1種です。テルルという名前は、ローマ神話の地球の神テルスにちなんで命名されました。このテルルに似ていることから、新しい物質はギリシャ神話の月の女神セレネにちなみ、セレンと名づけられました。セレンもガラスの着色剤やコピー機の感光ドラムなどに用いられる鉱物ですが、強い毒性をもっており、現在では使用が制限されています。

こうしたセレンの毒性については、19世紀半ばには知られていたようです。

セレンが動物や人間にとって、欠かすことのできない必須微量元素(ミネラル)であることがわかったのは、比較的新しく、1975年のことでした。必須微量元素とは、鉄、マンガン、銅、亜鉛などの物質で、体内の酵素やタンパク質を作るのに不可欠の栄養素です。
体内で必要なのはごく微量なので、普通の食生活をしていれば、欠乏症の心配をする必要はありません。土壌に含まれるセレンは、野菜などに吸収され、体に取り込まれます。またセレンを含む飼料で育てた家畜の肉を食べることでも摂取できます。しかし、地域によっては、土壌中のセレンが少ない場所があります。

セレンが体内に不足すると、さまざまな病気につながります。セレン欠乏症は、血液中のセレン濃度が0.085~0.09ug/mlより低い場合を指します。中国の土壌中のセレンが少ない地域(0.011~0.02ug/ml)では、昔からカシン病(風土病心筋障害) やカシン・ペック病(骨関節炎の1種) があります。
また体内のセレンとがんの発症率は相関関係があり、土壌中のセレンが少ない地域ほどがんが増えることが、さまざまな研究によって明らかにされています。ドイツのシュライザ一博士の研究によると、血中のセレン濃度が低い地域ほど、女性の乳がんの死亡率が高いことが明らかにされています。