原発事故で飛び散った放射性物質は25年経過しても消えない

大気中に放出された放射性物質は、長い年月をかけて人体に悪影響を与えます。原発事故の代表例としてよく取り上げられる1986年、旧ソ連のウクライナで起こったチェルノブイリ原発事故です。2011年、IPPNW(核戦争防止国際医師会議)のドイツ支部が、原発事故から25年の研究報告書を発表しました。

それによると、事故後、除染に関わった労働者83万人のうち、2005年までに1万2000~12万5000人が死亡したと推計されています。また、除染労働従事者の90%が、何らかの病気になっており、少なくとも74万人が、がんなどの重い病気を患っていたとのことでした。

一方、ウクライナのチェルノブイリ省が発表した論文によると、1987~1992年の5年間に、内分泌系25倍、神経系6倍、循環器系4倍、消化器系60倍、皮膚および皮下50倍、筋骨格系および精神的変調53倍と、それぞれの疾患が増加したと記録されています。これは明らかに原発事故の影響です。

原発事故の避難者のうち、健康な人の数は、1987~1996年の間に59% から18%まで低下。汚染地域の集団では52%から21%まで低下。さらに高レベルの放射線に曝された親から生まれた子どもたちでは81%から30%まで低下しました。

子どもたちは、原発事故で飛散した放射性物質の影響を直接受けていないにもかかわらず、このような数字です。放射性物質の影響力の恐ろしさです。今のところ、放射線の影響によると考えられるがんは、甲状腺がん、乳がん、脳腫瘍しか見られていません。しかし多くのがんは、25~30年の潜伏期があります。

実際、除染労働従事者たちは、前立腺がん、胃がん、血液のがんなどを発症しています。また奇形や死産が増加し、子どもの数が減少していることも報告されています。

ウクライナの近隣であるラトビアでは、チェルノブイリ原発事故後、6000人以上の健康な男性が復旧作業に関わり、0.01~0.5ミリグレイ(約10~50ミリシーベルト)を被爆しました。14年後、彼らは、めまい、記憶力の低下、頭痛などの症状に苦しんでいました。彼らの血液を調べたところ、脂質を酸化させ、がん化を進行させる活性酸素を除去する酵素の活性が明らかに低下していることがわかりました。

被爆によって、がんを防ぐ力が衰えたということです。またIPPNWの報告によると、低レベル放射線被爆(0~500ミリシーベルト)は、放射線のレベルが低いほど、がんを発症する前の潜伏期間が長くなることが確認されました。
さらに低レベル放射線被爆は遺伝子にも影響を与え、世代を経るごとに影響が増加していることがわかりました。たとえば、除染労働従事者と放射線被爆していない女性の間に生まれた子どもたちには、染色体異常によって、甲状腺がん、心臓血管系疾患、胃の疾患、神経精神疾患の症例が増加しています。これらの疾患は、低線量被爆の影響であることも判明しました。