同じカロリーなら糖質制限食のはうがやせやすい

もっとも簡単にいえば、食べ物などから摂取するエネルギーが消費エネルギーを上回れば太り、下回ればやせます。

通常のカロリー制限食なら、「消費エネルギー= 基礎代謝+ 運動エネルギー+ 特異動的作用」です。

基礎代謝とは、生きていくために最低限必要となるエネルギーで、これが高いはど太りにくいといえます。特異動的作用は先ほど述べたように、食事を摂ることによって消費されるエネルギーです。

食事をすると体が温かくなりますが、そのとき消費されるエネルギーが特異動的作用です。これが糖質制限食の場合は、「消費エネルギー= 基礎代謝+ 運動エネルギー+ 特異動的作用」だけでなく、「肝臓の糖新生でエネルギーを使用」と「特異動的作用の増加」、それに「尿中と呼気中でエネルギーを消失」が追加されます。

常に脂肪が燃えていることと、インスリンが基礎分泌以外はほとんど出ないことも、基礎代謝を高めるのに貢献するかもしれません。このように、少なくとも摂取カロリーが同じならば、糖質制限食のはうがカロリー制限食より体重減少効果が高いことは、理論的に証明できたと思います。

糖質制限食とカロリー制限食

このような事態を改善するためには、毎日の食生活を改めなくてはなりません。高糖質・低脂質のカロリー制限食より、高脂質・低糖質の糖質制限食のはうが、肥満の改善効果が高いことは欧米の疫学研究でも証明されています。

糖質制限食は摂取する糖質が少ないわけですから、血糖値が上がらず、インスリンが基礎分泌以外ははとんど出なくなります。

糖質を摂るとインスリンの追加分泌が10~30倍も出るのに対して、脂質を摂っても追加分泌は出ません。タンパク質はごく少量だけ追加分泌が出ます。

インスリンは肥満ホルモンとも呼ばれますが、追加分泌がはとんど出なくなれば、体脂肪が蓄えられにくくなります。

また糖質制限食では、2つのエネルギー源のうち、日常生活時の主なエネルギー源である「脂肪酸…ケトン体システム」を上手に使うようになるため、体脂肪が燃えやすくなります。

スーパー糖質制限食を実践すると、1日24時間、例えばビーフステーキを食ベている最中にも脂肪が燃え続けます。糖質を摂らないと、もう1 つのエネルギー源であるブドウ糖が不足すると思われるかもしれません。

しかし糖質は外部から摂らなくても大丈夫なのです。血糖が足りなくなる前に、肝臓内ではアミノ酸などからブドウ糖が新しくつくられます(糖新生)。

したがって、高血糖は改善されますが、低血糖になる心配はありません。このように一方では脂肪が燃え続け、他方では糖新生の過程でもかなりのエネルギーを消費するため、3食とも主食(糖質) を食べている人の代謝リズムとはまったく異なったものになります。

さらに糖質制限食は高タンパク食となるので、摂食時の特異動的作用(SDA)が通常食に比べて増加します。

食事をすると、体内に取り込まれた栄養素は細かく分解され、その一部は体熱となって消費されます。これがSDAと呼ばれるものです。その際どれくらいのエネルギーが消費されるかは、摂取する栄養素によって異なります。糖質では6% 、脂質では4% ですが、タンパク質は30% が熱となって失われるのです。

したがって糖質制限食は、このとき消費されるエネルギーが通常食より多いわけです。それらに加えて、脂肪からつくられたケトン体が必要以上に増えると、そのケトン体はエネルギーを持ったまま尿中や呼気中に排泄されます。ただ、

この分は糖新生に使うエネルギーに比べて少量です。話をまとめると、糖質制限食には体重減少への5 つの利点があります。

  1. インスリン(肥満ホルモン) が基礎分泌以外ほとんど出ない。
  2. 常に体脂肪が燃えているので、余分な脂肪がたまりにくい。
  3. 肝臓で糖新生が行われ、それにかなりのエネルギーを消費する。
  4. 高タンパク食となるため特異動的作用(SDA)が増加する。
  5. ケトン体が尿中や呼気中に排泄される。

一方、カロリー制限食は、糖質を摂るたびに血糖値が急上昇し、肥満ホルモンのインスリンが大量に追加分泌されます。インスリンにより体脂肪は燃えるはうから蓄えるほうに流れが切り替わり、体内にたまりやすくなります。

また、肝臓の糖新生はストップし、尿中や呼気中からケトン体は排泄されなくなります。まとめると、高糖質のカロリー制限食では次のような事態が起こります。

  1. 血糖値が上昇してインスリン( 肥満ホルモン) がたっぷり分泌される。
  2. 体脂肪は燃えなくなり、血糖が中性脂肪に変わり蓄積される。
  3. 肝臓の糖新生はストップする。
  4. 高タンパク食によって増加した特異動的作用(SDA)がなくなる。
  5. ケトン体は尿中や呼気中に排泄されなくなる。

両者を比べてみれば、カロリー制限食より糖質制限食のほうが体重減少効果が高いことが一目でわかると思います。

たとえ低脂質食でカロリー制限していても、糖質を摂れば体重減少への利点がすべて消えてしまうわけです。これは食べ物に含まれるカロリーとは無関係の生理学的な特質であり、あくまで糖質を摂るかどうかがカギとなります。

ブドウ糖はもともと貴重なエネルギー源

さて、細胞がブドウ糖を取り込むためには、「糖輸送体」という特別なタンパク質が必要です。英語の頭文字からGLUT (グルット)と呼ばれ、現時点でグルットl〜グルット14まで確認されています。

このうち赤血球・脳・網膜の糖輸送体はグルット1で、脳細胞や赤血球の表面にあるため、血流さえあればいつでも血液中からブドウ糖を取り込めます。

それで赤血球や脳や網膜は、安静時にもブドウ糖を取り込めるわけです。これに対して筋肉細胞と脂肪細胞に特化した糖輸送体がグルット4 で、ふだんは細胞の内部に沈んでいるので、血流があってもほとんどブドウ糖を取り込めません。しかし激しい筋肉の収縮があると、細胞内に沈んでいたグルット4が細胞表面に移動してきて、血流からブドウ糖を取り込めるようになるのです。

歩行程度の軽い運動でも20〜30分間続けるとグルット4が細胞表面に移動してブドウ糖を取り込みます。そして糖質を食べて血糖値が上昇してインスリンが追加分泌されたときも、グルット4 が細胞表面に移動してブドウ糖を取り込みます。

グルット4がなぜこうした特殊な役割を担っているかといえば、人類が主に摂取していたのは脂質・タンパク質であり、糖質はたまにしか摂らない貴重なものだったからと考えられます。

グルットは進化の過程で突然変異をくり返しながら、ブドウ糖という貴重なエネルギー源を使う優先順位を確立していったのでしょう。

このように、体内に蓄えられているエネルギーを考慮すれば、人類は日常的には脂肪を燃やして生活し、いざ激しい動きをするときなどに、非常用としてブドウ糖を利用していたことがわかります。

人間は「ブドウ糖…グリコーゲン」と「脂肪酸…ケトン体」たくのシステムを巧みに使い分けて、700万年間生きてきたのです。