糖質制限食はどんな病気・症状に効くのか?

もともとは糖尿病の治療食として始めた糖質制限食ですが、検査データの変化からも明らかなように、さまざまな病気や症状が改善する可能性があります。

厚生労働省は2011年7月6日、それまで「4大疾病」と位置づけて重点対策に取り組んできた「ガン、脳卒中、心臓病、糖尿病」に、新たに精神疾患を加えて「5大疾病」とする方針を発表しました。

うつ病や統合失調症などの精神疾患の患者は年々増えており、従来の4大疾病をはるかに上回っています。

厚労省の2008年の調査で受診者の数は、糖尿病237万人、ガン1 5 2万人などに対して、精神疾患は323万人にのぼっています。こうした現状をふまえて重点対策が欠かせないと判断したわけです。

これらの「5大疾患」に対して、糖質制限食はどこまで効果を見込めるのでしょうか。

  1. ガンに関しては、高インスリン血症や高血糖、そして肥満などの生活習慣がかかわっている場合は、予防効果が期待できます。一方、胃ガンや子宮頸ガンや肝臓ガンなど、細菌感染やウィルス感染が主な原因となっているものには、糖質制限食の効果は期待できません。
  2. 脳卒中については、種類によって効果が異なります。脳卒中の代表的な3つの種類は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血です。脳梗塞は、糖質制限食を実践すると血流がよくなるので予防効果があると思います。脳出血は、脂肪をしっかり摂れば予防できるので糖質制限食がお勧めです。くも膜下出血は、先天的な素因から生じる脳動脈瘤が原因となることがはとんどなので、予防効果はあまり期待できないと思います。
  3. 心臓病のなかでもっとも多い心筋梗塞は、糖質制限食で血流がよくなるので予防効果が期待できます。
  4. 糖尿病は、もちろん糖質制限食でおおいに改善が見込めます。
  5. 精神疾患については、うつ病・うつ状態であればブドウ糖ミニスパイクのない糖質制限食で改善する場合もあると思いますが、改善の程度には個人差があります。また気分の安定は糖質制限食で得られやすいのですが、それだけでは改善しないうつ病もあると思います。うつ病とよく誤診される「双極性障害」は、糖質制限食でも改善は困難です。統合失調症も、糖質制限食だけでは改善が難しいと思います。EPA(エイコペンタエン酸) の投与で症状が軽減したという報告もありますが、糖質制限食で軽減できればいいという程度で、まだどうこう言える段階ではありません。

これらも含めて、それ以外の効果をまとめておきましょう。現時点で症例もたくさんあって著しい改善が認められるのは、糖尿病・肥満・メタボリックシンドローム・脂肪肝です。

症例数はまだそれほど多くないものの、逆流性食道炎と尋常性乾癖もやはり劇的に改善します。

逆流性食道炎は糖質制限食を始めた直後から改善し、尋常性乾癖は1ヶ月くらいで目に見えて効果が表れます。

また、糖質制限食を実践すると全身の血流・代謝がよくなるので、自然治癒力そのものが高まると考えられます。結果として、それ以外のさまざまな病気・症状についても改善した方々が大勢おられます。

糖質制限食は人類本来の食生活であり、人類の健康食なので、これらの改善は当たり前といえば当たり前です。

花粉症・アトピー性皮膚炎・高血圧・尋常性挫創・多嚢胞性卵巣症候群・ダンピング症候群・低血糖など、さまざまな生活習慣病の改善・予防効果が期待できます。

また個人差はありますが、乾燥肌が美肌になったり、髪の毛がしっかり太くなったりと、美容効果が出る人も少なくありません。そしてまだ仮説の段階ではありますが、肺ガン・大腸ガン・乳ガンなどの欧米型ガン、それに動脈硬化・アルツハイマー・老化防止などの効果が期待できます。

糖質制限食で「気になる数値」が改善

糖質制限食を実践すると、血糖値や中性脂肪、コレステロール値など、さまざまな数値が改善します。ただ、これらの検査データは、はっきり一定の傾向が出るものと、そうでないものがありますので、まずはその変化を示しておきます。

病院の検査データを見慣れていない人には少し難しく感じるかもしれませんが、実際に検査や治療を受けたことのある人にとっては有益だと思います。

  1. 血糖値はリアルタイムに改善します。
  2. スーパー糖質制限食なら、ヘモグロビンA1Cは月に1〜2%改善します。
  3. 中性脂肪も速やかに改善します。
  4. H DL (善玉)コレステロールは増加しますが、増加の程度と速度には個人差があ
    ります。
  5. LDL コレステロールは低下・不変・上昇と個人差があります。上昇した人も半年〜1年くらいで落ち着くことが多いです。
  6. 総コレステロールは、低下・不変・上昇と個人差があります。上昇した人も半年〜1年くらいで落ち着くことが多いです。
  7. 尿素窒素はやや増加傾向になる人が多いですが、そのうち落ち着くことが多いです。
  8. クレアチニンは不変です。
  9. カリウムも不変です。
  10. 血中ケトン体は基準値より高くなりますが、生理的なもので心配ありません。
  11. 尿中ケトン体は当初3カ月〜半年は陽性になりますが、その後陰性になります。
  12. 脂肪肝に付随するGPTや-GTP値も改善します。

LDLコレステロールに関して「低下・不変・上昇」と個人差があるのですが、なぜそうなるのかはよくわかりません。H D L コレステロールはかなり増加し、LDL コレステロールは少し低下する場合もあります。

血中ケトン体が基準値より高いのは、糖質制限食を実践したことによる生理的な変化です。農耕開始前の人類のケトン体の基準値はこれくらいだったと考えられます。定期的な検査で、HD L-C は100 〜110mg、LDL-C は110~140mg、TC は210~250mgくらいで推移しています。

テーラーメードダイエットと糖質制限食

玄米魚菜食、断食療法、糖質制限食を経て、いま私は1人ひとりの年齢・体質・病状・嗜好に合わせたテーラーメードの食事療法をすすめています。

症状の改善だけなら、人類皆糖質制限食でよいと思いますが、地球の人口70億人を養うために穀物は必要です。

このことをふまえて食い分けが必要だと考えています。

例えば、小児、青少年、アトピーや喘息の若い人、成人でも糖尿病やメタポリックシンドロームなどがない人なら、主食を末精製の穀物(例えば玄米)にして 食事療法を実践すればよいと思います。

運動選手など日常的に運動をしている青少年は、ある程度の量の未精製穀物を摂っても、筋肉がどんどん血糖を利用するのでブドウ糖ミニスパイクも生じにくく、大丈夫です。

一方、読書家タイプで運動をあまりしない青少年は、未精製穀物を摂るにしてもやや少なめにしておくほうが無難です。

すでに糖尿病を患っている人やメタボの人は、糖質制限食がベストの選択です。糖質制限食は糖質が少ないので食後血糖値の上昇がはとんどなく、常に脂肪を燃やすエネルギーシステムが活性化しており、肥満解消や生活習慣病予防にもおおいに役立ちます。

このように「テーラーメードの食事療法」の枠組みで考えていけば、玄米魚菜食と糖質制限食は対象が異なっており、矛盾は生じません。玄米魚菜食、糖質制限食、断食に共通する現象があります。それは食前・食後血糖値の差が少なくて、代謝が安定することです。これが食事療法の効果という点で決定的に重要といえます。

糖尿病とメタボは、ほとんどが糖質制限食のみで改善するはずです。

1984年から食事療法の研究を続けてきて現在に至るわけですが、基本的に、食事療法をしっかり行えば、それだけで健康になれる道を目指してきました。

単身赴任のサラリーマンや下宿生活の学生さんで、外食やコンビニの弁当などですますことが多く、食生活がどうしても偏る場合などは、サプリメントが必要なこともあると思います。

また、スーパー糖質制限食の初期に、運動量が多い人で時にこむら返りが生じることがあり、カルシウムとマグネシウムの補充が有効なこともあります。

このように、サプリメントがいっさい不要ということではありませんが、テーラーメードの枠組みのなかで、できるだけ食事療法単独で健康増進を目指したいというのが、基本的な考え方です。もちろん「食事療法+西洋薬+漢方薬」は、てありです。

今後もサプリメントや健康補助食品に頼らなくてすむような、テーラーメードの食事療法を提唱していきたいと考えています。