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主食が穀物ではなかった証拠2「人体のバックアップシステム」

2つめの証拠は、人体のバックアップシステムに関することです。ケトン体は、ほとんどの体細胞でエネルギー源として使われますが、唯一赤血球だけはミトコンドリアというエネルギー生産装置を持っていないので、ブドウ糖しか利用できません。

肝臓はケトン体を生成しますが自分では利用しません。赤血球は血液の主成分の1つで、体細胞に酸素を渡し、二酸化炭素を受け取って肺まで運んでいます。

もしこの機能が損なわれてしまうと、酸素がきちんと送られなくなって生命維持に深刻な事態をもたらします。

したがって、ブドウ糖しか利用できない赤血球のために、最低限のブドウ糖を常に確保しておく必要があり、人体は多重のバックアップシステムを持っています。グルカゴンやエビネフリンというホルモン、副腎皮質ステロイドホルモンなどは血糖上昇作用があります。

そして肝臓でアミノ酸などから糖新生してブドウ糖をつくり、血糖を確保します。このようなバックアップシステムが不測の事態に備えて用意されているわけです。

一方、インスリンの場合はどうでしょうか?インスリンは体内で唯一、血糖値を下げる働きをしています。すい臓のβ 細胞がインスリンの分泌をきちんと行っていればよいのですが、分泌機能が低下してしまうと血糖値を下げることができなくなり、人体にやはり深刻な事態をもたらすことになります。

ところが、インスリンにはバックアップシステムがありません。糖尿病がこれはど増えていることを考えれば、すい臓のβ 細胞というのは脆弱なものといえますが、それ以外に血糖値を下げるシステムはまったく用意されていないのです。

その理由として考えられるのは、農耕前の人類が糖質をはとんど摂らない食生活を送っていたからではないでしょうか。糖質を摂らなければ血糖値が上がることはまれで、インスリンの追加分泌はほとんど必要ありません。したがって、バックアップシステムをつくる必然性がなかったと考えられます。このことも、人類の主食が穀物(糖質) ではなかったことの状況証拠です。

主食が穀物ではなかった証拠1「インクレチンの効力」

現代人が穀物に依存するような遺伝子を備えていないということは、人体の仕組みを見れば理解しやすいと思います。

「DPP- 4阻害剤」という糖尿病の薬が日本でも健康保険で使えるようになり、2009年12月から発売されました。この薬は「インクレチン」というホルモンを血中にとどめる作用があります。

インクレチンとは、小腸から分泌されるホルモンで、血糖値が正常のときはインスリン分泌を促進させず、食後高血糖のときだけインスリン分泌を促進させるので、低血糖も起こしにくいのです。

まことに都合のいいホルモンですが、残念なことにDPP-4酵素によって速やかに分解されてしまうため、血中の半減期が約2分と非常に短いのです。

この酵素の働きを阻害してやれば、インクレチンは血中にとどまり、およそ24時間近くも血糖降下作用を発揮してくれることになります。

ここで根源的な疑問が湧いてきます。なぜ、このような都合のいいホルモンが、血中でわずか2分で分解されて効果を失ってしまうのでしょうか?考えられる一番シンプルな推測は、人類の進化の過程でインクレチンは食後2分くらい働けばもう充分で、あとは消え去るのみだったということでしょう。農耕が始まる前の700万年間は、日常的な血糖値の上昇がはとんどなかったのですから、インクレチンが何時間も働かなくてはならない必然性はありません。

当時の食生活でいえば、日常的には野草・野≠采、たまにナッツや果物などの糖質を摂ったときに血糖値が少し上昇するので、インクレチンはそれに対応していたものと考えられます。

そうだとすれば、食後2分間働けば充分です。農耕が始まり、食後高血糖が日常的に生じるようになったあとは、インクレチンにおおいに活躍してはしいところです。

しかし、いかんせん700万年間の進化の重みは大きくて、DPP-4が律儀にすぐ分解してしまうクセがついているのです。

人類の歴史を考えれば穀物が主食になった期間はごく短いので、それに対応できるような突然変異は生じなかったのでしょう。インクレチンが約2分間で分解されるという生理学的な特質は、人類の主食が長らく穀物(糖質) ではなかったことの証拠といえるでしょう。

穀物に非対応の人類の遺伝子

人類がチンパンジーと分かれて700万年です。その後、アウストラロピテクス属、パラントロプス属、ヒト属、7属23種の人類が栄枯盛衰を繰り返して結局、約20万年前に東アフリカで誕生したホモ・サピエンス(現世人類) だけが現存しているわけです。

ここで大切なことは、7属23種の人類はすべて狩猟・採集が生業だったということです。つまり、農耕が始まる前の約700万年間は、人類皆糖質制限食であり、ヒトは進化に要した時間の大部分で狩猟・採集生活をしていたということです。

したがって、現世人類の行動や生理・代謝を決める遺伝子セット(DNA)は、狩猟・採集の生活条件に適応するようにプログラムされていると考えるのが自然です。

大ざっばですが、人類の歴史700万年のうち、農耕が始まって1万年なので、穀物を主食にしている期間はわずか7 00分の1 となります。

残りの期間は、人類の食生活は糖質制限食でした。くり返しますが、人類の進化の過程では「狩猟・採集期間‥農耕期間=700 :1」で、狩猟・採集期間のはうが圧倒的に長いのです。

このように人体の生理・栄養・代謝システムにおいては、糖質制限食こそが本来の食事であり、穀物に60%も依存するような食事を摂るようになったのは、ごく短期間にすぎないのです。

本来、人間は、穀物に依存するような遺伝的システムは持っていないということです。しかし、人口の増加を支えるため、やむをえず穀物が主食になっていったものと考えられるのです。

糖質制限食の基本スタンスは、長い歴史のなかで人類が日常的に摂取していたものを食べるということです。

糖質制限食でも、「適量の野菜、少量のナッツ類、少量の果物」程度の少なめの糖質量は、大昔からときどき摂取していたもので、人体の消化吸収・栄養代謝システムにおいても許容できる範囲だと思います。

山イモは、さすがに糖質含有量が多いので、正常人はともかく糖尿人はやめておくはうが無難です。正常人が、健康のためにスーパー糖質制限食を実践する場合は、糖尿人より多めの野菜、適量のナッツ類、適量の果物、適量の山イモなど球根、くらいまでの糖‥質量は許容範囲だと思います。

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