糖質制限食は糖質をおさえる分、相対的に高脂質・高タンパク食になります。これまで見てきたとおり「脂肪悪玉説」はその信憑性を失ったわけですが、では、いったい脂肪はどれくらい摂るのが適量といえるのでしょうか?
断定はなかなか難しいのですが、「脂肪消費量が多いはど寿命が延びる」という結論を導き出したのは,世界137カ国の男性の脂肪消費量と平均寿命の関係をみたグラフがあります。
それによると、1人1 日当たりの脂肪消費量125gまでは、消費量が多くなるにつれて寿命が延びるという正の関係があります。
それを超えるとはんの少し寿命が縮みはじめますが、140gや180 gの国々でも55g以下の国々に比べれば、はるかに高い平均寿命となっています。55g以下の国々の平均寿命は、55歳を下回ることがはとんどです。125gの国がおよそ75歳でピークですが、180gの国でも70歳くらいあります。
「脂肪の摂取不足が平均寿命を低くしている決定的要因である」と結論づけることもできます。そしてハワイの日系人のデータを示して、1 日当たりの脂肪摂取量が40 g未満になると、脳卒中死亡率と総死亡率がきわめて高くなることを指摘しています。
脂肪供給量(消費量) をもとに平均寿命との関係を示していますが、当然のことながら、脂肪供給量と実際の摂取量は異なっています。
例えば日本の脂肪供給量は2003年の国連食料農業機関(FAO)の報告では1日86.2 gですが、実際の摂取量はこの年の国民栄養調査では54.O gです。つまり、豊かになった国では食料を廃棄する分が結構あるということです。
したがって、実際の摂取量は供給量の6〜8割程度とみるのが妥当でしょう。国連食料農業機関の資料には摂取量のデータがないため推測するしかありませんが、供給量125 gまでは寿命が延びるということは、摂取量80 〜100 gくらいまではOK と思います。そして脂肪が少なすぎるよりは、100gを超えたとしてもきちんと摂ったほうが平均寿命に関しては無難なようです。
日本のデータを見ても、脳卒中の死亡率は1965年をピークに減りはじめ、1980年に半減、1985年に3分の1となりました。これは脂肪摂取率が急増した時期とよく一致しており、日本が豊かになって肉や乳製品など高価な食材を食べるようになったことが関係していると考えられます。
日本の医師や栄養上の間では、「戦後、炭水化物の摂取が減り続け、脂肪の摂取が増え続けて肥満や糖尿病が激増した」という常識・定説が信じられてきました。しかし調査からも明らかなように、炭水化物の比率は1997年を底にしてその後は緩やかに増加しています。
脂質は逆に1997年をピークにして、その後は緩やかに減少しています。この常識・定説は誤った神話だったのです。そして、現在に至るまで肥満と糖尿病は増え続けています。
その背景には、現代の食生活が、嗜好飲料・精製炭水化物・ジャンクフードなどGI(血糖指数)の高いものに変化したことと、運動不足・エアコンの普及などがあると考えられます。GI は血糖上昇反応度とも言われ、GIが高い食品はど急激に血糖値を上昇させます。