貧しい人たちが 肥満になりやすいのは

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日本ではカロリー制限食がいまだに重視されていますが、欧米では脂質より糖質を制限するはうが肥満の防止効果が高いという認識が一般にも広まってきています。

それを示す面白い例が、ニューヨーク市と米飲料業界との間で起こった「ソーダ戦争」です。

ニューヨーク市、炭酸飲料狙い撃ち 貧困層用クーポンで購入禁止案市長VS業界

肥満の原因とされる砂糖入り炭酸飲料などの消費量を抑えて、医療費を抑制しようニューヨークのブルームバーグ市長が、そんな試みを打ち出しました。

一方、飲料業界は「無用な干渉でしかない」と猛反発し、「ソーダ戦争」の様相を呈していました。市の提案は、月当たりの世帯収入が2400ドル(約20万円、4人家族の場合) 未満の低所得者層に配られる米政府の食糧クーポン券で、炭酸飲料などの砂糖入り清涼飲料水を買えなくするというものでした。

市によると、人口当たりの糖尿病患者は、低所得者が住む地域では、高所得者層地域の4倍。1日に1回以上炭酸飲料を飲む人が38%以上いる地域は、クーポン券利用者が多い地域と重なり、肥満率が30% 以上に達するというのです。

このため市長は、クーポン券で炭働飲料を買えなくすれば、より栄養価が高い食料品にお金がまわるようになり、肥満や糖尿病を抑えられると訴えました。

これに対し、米国飲料協会は「砂糖入り飲料水のカロリーだけが特別なわけではない」として、狙い撃ちに反発するコメントを発表しました。

「恵まれない人たちにとって不公平な措置だ」と主張し、一歩も引かない姿勢でした。

バーなどの屋内施設からたばこを追放し、ファストフード店にカロリー表示を義務づけるなど、次々と健康政策を打ち出してきたブルームバーグ市長にとって、肥満対策は負けられない戦いでした。

しかし、飲料業界は大きな政治力を持っており、今後、市の提案が米政府に認められるかどうかは、不透明です。買い物客の8割前後が、クーポン券利用者だというブルックリン区のスーパーで働くスタンリー・パンフィールさん(27) は「市長の考えは面白いかもしれないけど、どっちにせよ、みんなソーダを買うよ」と効果に懐疑的でした。

肥満は、過去には「ぜいたく病」と言われていましたが、最近は貧困層に多いという事実がはっきりしてきました。これは米国に限った話ではなく、世界で共通のことと考えられます。

先進国でも貧困層が簡単に手に入れることができる食料は、糖質が原料のパンやめん類や米飯、砂糖たっぷりの清涼飲料水、さらにポテトチップスや甘い菓子パンやクッキーやケーキ…。

肉や魚などの高脂質・高タンパク食はこれらに比べると高級な食材で、箕囲層には手に入りにくいのです。

米国のソーダとは、コーラなど砂糖がたくさん入った清涼飲料水全般を含みます。2009年、米国飲料協会が公立小中学校におけるエネルギー量(糖質)の多い清涼飲料水の発売を全面停止したのは、記憶に新しいところです。

普通にパンを食べて、飲み物を水やお茶にするのか、砂糖たっぷりの清涼飲料水にするのかでも、肥満率には大きな差があると思います。

米国南部の州は肥満者の割合がとくに高く、肥満とつながりのある糖尿病や高血圧症の割合も高いことが2004年に報告されています。どれい1862年のリンカーン大統領による「奴隷解放宣言」や1865年の南北戦争終結を経て、南部の州で奴隷の扱いを受けていた黒人は解放されました。

しかし、こうした背景から、南部諸州では貧しい黒人の比率が高いのです。2005年8月には、ハリケーン「カトリーナ」がルイジアナ州やミシシッピ州を襲い、多大な被害を出レました。

ルイジアナ州最大の都市ニューオリンズは、黒人街のはとんどが水没しました。ニューオリンズの住民の75% が黒人です。このとき米政府の救助活動のあまりの遅れに黒人差別であると暴動が起きたのは、いたましい記憶です。

肥満がもっとも深刻なのはミシシッピ州で、成人の29.5% が肥満と推計されました。ワースト2位は同じく南部のアラバマ州( 28.7% )、3位はウェストバージニア州(28.6%) です。

世界的にみて、糖尿病の人たちがもっとも多いのは中国とインドです。中国の多数を占める貧しい農民や、インドのスードラ階級の人びとは、基本的に安価な炭水化物以外は手に入りにくいのです。

世界最貧国の1 つ、バングラデシュでも糖尿病が激増しています。バングラデシュでサイクロンによる水害が発生したときも、先進国からの食料援助は、菓子パンやクッキーなど安価で保存のよい炭水化物でした。これからは、そうした貧しい国々で糖尿病がさらに増えていく可能性が高いでしょう。

 

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