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テーラーメードダイエットと糖質制限食

玄米魚菜食、断食療法、糖質制限食を経て、いま私は1人ひとりの年齢・体質・病状・嗜好に合わせたテーラーメードの食事療法をすすめています。

症状の改善だけなら、人類皆糖質制限食でよいと思いますが、地球の人口70億人を養うために穀物は必要です。

このことをふまえて食い分けが必要だと考えています。

例えば、小児、青少年、アトピーや喘息の若い人、成人でも糖尿病やメタポリックシンドロームなどがない人なら、主食を末精製の穀物(例えば玄米)にして 食事療法を実践すればよいと思います。

運動選手など日常的に運動をしている青少年は、ある程度の量の未精製穀物を摂っても、筋肉がどんどん血糖を利用するのでブドウ糖ミニスパイクも生じにくく、大丈夫です。

一方、読書家タイプで運動をあまりしない青少年は、未精製穀物を摂るにしてもやや少なめにしておくほうが無難です。

すでに糖尿病を患っている人やメタボの人は、糖質制限食がベストの選択です。糖質制限食は糖質が少ないので食後血糖値の上昇がはとんどなく、常に脂肪を燃やすエネルギーシステムが活性化しており、肥満解消や生活習慣病予防にもおおいに役立ちます。

このように「テーラーメードの食事療法」の枠組みで考えていけば、玄米魚菜食と糖質制限食は対象が異なっており、矛盾は生じません。玄米魚菜食、糖質制限食、断食に共通する現象があります。それは食前・食後血糖値の差が少なくて、代謝が安定することです。これが食事療法の効果という点で決定的に重要といえます。

糖尿病とメタボは、ほとんどが糖質制限食のみで改善するはずです。

1984年から食事療法の研究を続けてきて現在に至るわけですが、基本的に、食事療法をしっかり行えば、それだけで健康になれる道を目指してきました。

単身赴任のサラリーマンや下宿生活の学生さんで、外食やコンビニの弁当などですますことが多く、食生活がどうしても偏る場合などは、サプリメントが必要なこともあると思います。

また、スーパー糖質制限食の初期に、運動量が多い人で時にこむら返りが生じることがあり、カルシウムとマグネシウムの補充が有効なこともあります。

このように、サプリメントがいっさい不要ということではありませんが、テーラーメードの枠組みのなかで、できるだけ食事療法単独で健康増進を目指したいというのが、基本的な考え方です。もちろん「食事療法+西洋薬+漢方薬」は、てありです。

今後もサプリメントや健康補助食品に頼らなくてすむような、テーラーメードの食事療法を提唱していきたいと考えています。

玄米菜食からスタート

糖質制限食の研究を始めてかなりの年月が経ち、その間、実に多くの方々が糖質制限食を実践されました。患者さんや多くの皆さんからさまざまな声をいただき、その効果の大きさに私自身が驚かされることも少なくありませんでした。

しかし当然ながら、糖質制限食に至るまでには試行錯誤があり、そのときどきの学びが糖質制限食の理論を補強したり、糖質制限食の効果を高めたりするうえで役に立っています。

糖質制限食が人類の健康食であるという確信を得たのも、そうした経験があったからです。そこでどのようにして糖質制限食にたどりついたのかを紹介します。

玄米菜食を導入したのは、1984年でした。病院給食として玄米を提供したのは、日本初だったと思います。当時、西洋医学を学び、漢方医学も学び、なんとか目の前の患者さんの症状を改善したいという思いとは裏腹に、治療がうまくいかないこともあり、臨床的に壁にぶちあたっていた時期でした。

いろいろ悩みましたが、西洋医学も漢方治療も薬物療法中心なので、薬物治療の前にわ食生活そのものを根本的に見直す必要があるのではないかという思いが湧いてきました。患者さんに食べてもらうなら自らもということで、主食を玄米に代えて、ジャンクフードや甘い物もいっさいやめました。

10日間くらい経つと、不思議なことに中学生時代からの長い付き合いだったアレルギー性鼻炎が、ピタリと止まりました。

ところが深酒が3 日も続いたり、たまに甘い物を食べると天罰てきめん、アレルギー性鼻炎が再発し、つくづく食生活の大切さを身をもって思い知らされました。

自らの体験もふまえて、1984年から当分の間は、アトピーも糖尿病もリウマチもぜんそく喘息も肥満も… すべての病気に対して玄米魚菜食を推奨していました。

玄米魚菜食とほぼ同じ時期に病気治療の一環として導入したのが絶食療法(断食療法)ですが、こちらも病院としては希有な試みだったと思います。

患者さんに断食してもらうなら自らもということで、さっそく試してみました。最初の2日間は、午前中立ちくらみ・脱力感がありましたが、3 日目はそこそこの健康状態でした。

それでも血糖値は35mg/dl舶と、びっくりするような低い数値が記録されこんすいました。普通なら意識不明で昏睡のレベルですが、断食中は血中ケトン体が高値となり、脳のエネルギー源となるので大丈夫なのです。

脳はケトン体を利用するという事実を、すでに34歳のときに自らの体で実験していたようです。その後しばらくは毎年1回のペースで断食をしたので、計12〜13回したことになります。

断食を始めてから、アレルギー性鼻炎は基本的にコントロール良好です。しかし忘年会シーズン(深酒) や中国旅行(砂糖+酒) の際は、それなりに再発して漢方薬を服用していました。

1999年から糖質制限食を導入し、糖尿病治療に画期的な成果をあげていました。しかしながら、あまりにも変わった食事療法ということで、当初は私も栄養士も信用していなかったのです。

その後かなり重症糖尿病患者さんが入院され、玄米魚菜食(カロリー制限食)を実践してもらいましたが、1週間たっても食後血糖値は400mg/dlを超えていました。そこで思い切って糖質制限食に切り替えたところ、インスリン注射も経口血糖降薬も使用しなかったにもかかわらず、その日から食後血糖値は正常になりました。

正直びっくり仰天しました。抜群の治療効果を目の当たりにした私たちは、病院をあげて糖質制限食の研究に取り組むようになったのです。

さて、私自身はここ十数年は断食していませんが、1回目の断食後は朝食抜きの1日2食でプチ断食を継続していて、食生活にはそれなりに気をつけていました。

しかし、2002年の病院の健康診断 でついにヘモグロビンA1Cが6.3% と糖尿病の域に達し、慌てて食後2時間血糖値を測定してみると260mg/dlもあり惜然としました。

胚芽米に替えて玄米で実験してみても240前後ではんの少し減少しただけでした。腹部の内臓脂肪CTで基準オーバー、そして高血圧… … しつかりメタポリックシンドロームの基準を満たしていました。

ここに至り、一発奮起して、2002年6月から糖質制限食を始めました。

肉・魚・野菜・豆腐などおかずは食べ放題で、主食(糖質)だけがNGです。酒はビール・日本酒などの糖質を含んでいる醸造酒はやめて、もっぱら焼酎にしました。その結果、半年後には体重が56kgに落ち、血圧も120/70mmHG、ヘモグロビンA1Cも正常になり、メタポリックシンドロームも解消し、学生時代の体型にぴったり戻りました。年現在もその体型を保っています。

 

農耕前の人類の「主食」は何だったか?

農耕が始まる前、狩猟・採集の時代には、人類の主食が穀物ではありえないことをここまで説明してきました。

それでは、初期の人類の主食はいったい何だったのでしょう。とくに、文化が出現する以前の、石器も狩りの技術も未熟な70 0万〜20万年前の人類の主食とは?主食は種の生存にとって大きな意味を持つもので、同時代・同地域で主食が競合する種はどちらかが絶滅していきます。

すなわち自然界では、一種の動物に一種の主食があるのです。「親指はなぜ太いのか」のライフワークに、マダガスカル島(外界と遮断された世界) の多種のサルの生態や主食を調べた仕事があります。島氏は、各種のサルで、主食を摂るのにピッタリの親指や手指が発達することを見出しています。

つまり、マダガスカル島に住むさまざまな種のサルには、それぞれ異なる固有の主食があり、主食を食い分けることで共存しているのです。から例えばアイアイというサルの主食は、殻が固くて3 cmくらいの大きさのラミーという巨木の種子です。

 

アイアイは、まず非常に太い親指で殻をしっかり固定して、歯で削って穴を開けたあと、特殊に発達したきわめて細くて長い中指を突っ込んで、中身をかき出して食べます。主食と手指の関係ということでは、アフリカのチンパンジーのナックルウォークも特徴的です。

彼らは、蔓に覆われた密林で木々の先にある果実を主食として、蔓を持って移動しっつ食事をします。そのため親指と手指は、蔓をつかんで移動して主食を得るライフスタイルにピッタリの構造をしています。

彼らはたまに地上に降りたときも、蔓を持つときのナックル(拳固) のまま歩行するのです。他のサルのように手掌をつけて歩くことはしません。

島氏は主食と手指のこのような関係を指摘した後に、人類の主食について次のような大胆な仮説を述べておられます。「ライオン等の肉食獣が、大型草食獣を倒して内臓や肉を食べる。その後ハイエナが登しにく場し屍肉を漁る、武器も未熟で狩りもままならない当時の人類は、ハイエナが去るのを待って最後に残った骨(骨髄) を拾って手にもって安全な場所まで二足歩行で移動したあと、石(石器) で骨を割ってそのまま食べたり骨髄をすすったりしていた。

主食は常の食物だから握りしめる石は常に持っていなくてはならない。そのため四足歩行がむつかしく二足歩行が必要となった」その状況証拠として、アフリカ東海岸の人類の遺跡のはとんどに、「大型肉食獣の歯形の付いた草食獣のかち割られた骨」が出土しているそうです。

そして人類の親指は、他のサルとはまったく異なるきわめて特殊な形態をしており、石を握りしめるのに最適な機能を有しているそうです。骨や骨髄は、他の動物とはまったく競合しない、安定して確保できる食糧でもあります。

骨髄には、人体に欠かせないEPA( エイコサペンタエン酸) やDHA (ドコサヘキサエン酸)もたっぷり含まれています。

タンパク質・脂質・カルシウム・鉄なども豊富です。富山県食品研究所によれば、午骨100gあたりタンパク質19.7%、脂質柑18.1 % 、カルシウム780mg、鉄8.6 mgです。

豚骨や鶏骨もまた、栄養的には申し分のない構成で、骨は人類の主食として優れたバランス栄養食といえます。人類の脳の機能が急速に発達した時期(約20万〜16万年前)は、動物性食品にしか含まれていないEPA・DHA の摂取が重要なポイントであり、この頃の人類は、それらが含まれている食品をしっかり摂っていたと考えられます。

大昔の人類の主食が骨・骨髄であるという島氏の仮説は、一見びっくりするようなものですが、私はかなりの説得力を感じました。骨(骨髄) だけではなく、魚介類や動物の内臓・肉なども含めて、動物性食品が狩猟・採集時代の主食だったという仮説もありおぼつかえると思います。少なくとも植物性食品が主食では、脳の発達は覚束なかったでしょう。