現代人が穀物に依存するような遺伝子を備えていないということは、人体の仕組みを見れば理解しやすいと思います。
「DPP- 4阻害剤」という糖尿病の薬が日本でも健康保険で使えるようになり、2009年12月から発売されました。この薬は「インクレチン」というホルモンを血中にとどめる作用があります。
インクレチンとは、小腸から分泌されるホルモンで、血糖値が正常のときはインスリン分泌を促進させず、食後高血糖のときだけインスリン分泌を促進させるので、低血糖も起こしにくいのです。
まことに都合のいいホルモンですが、残念なことにDPP-4酵素によって速やかに分解されてしまうため、血中の半減期が約2分と非常に短いのです。
この酵素の働きを阻害してやれば、インクレチンは血中にとどまり、およそ24時間近くも血糖降下作用を発揮してくれることになります。
ここで根源的な疑問が湧いてきます。なぜ、このような都合のいいホルモンが、血中でわずか2分で分解されて効果を失ってしまうのでしょうか?考えられる一番シンプルな推測は、人類の進化の過程でインクレチンは食後2分くらい働けばもう充分で、あとは消え去るのみだったということでしょう。農耕が始まる前の700万年間は、日常的な血糖値の上昇がはとんどなかったのですから、インクレチンが何時間も働かなくてはならない必然性はありません。
当時の食生活でいえば、日常的には野草・野≠采、たまにナッツや果物などの糖質を摂ったときに血糖値が少し上昇するので、インクレチンはそれに対応していたものと考えられます。
そうだとすれば、食後2分間働けば充分です。農耕が始まり、食後高血糖が日常的に生じるようになったあとは、インクレチンにおおいに活躍してはしいところです。
しかし、いかんせん700万年間の進化の重みは大きくて、DPP-4が律儀にすぐ分解してしまうクセがついているのです。
人類の歴史を考えれば穀物が主食になった期間はごく短いので、それに対応できるような突然変異は生じなかったのでしょう。インクレチンが約2分間で分解されるという生理学的な特質は、人類の主食が長らく穀物(糖質) ではなかったことの証拠といえるでしょう。